運命

人の出会いも運命だけど、物との出会いも運命だと思う。

 

僕は子供のころから絵を描くことが大嫌いだった。

もちろん図工とか美術の授業とかも嫌いだった。

 

中学生くらいから読書の楽しみを知って「僕も物語を書いてみたい」と小説家を志していた時期もあった。ゲイ向けの雑誌に小説を投稿したら掲載されたこともあった。こんな僕が毎日漫画を描くなんて、自分でも思いもしていなかった。

 

僕が23歳の頃。

19歳から同棲しているパートナーが、精神疾患で仕事を続けるのが難しくなって退職して無職になった。しかも、僕は僕で、憧れだったマンションを購入してローンが始まったばかりだった。
パートナーの収入が無くて、住宅ローンに追われて、とにかくお金が無かった。

 

当時23歳だよ?まだまだ遊びたい年頃だよ?それなのにお金がなくて、どこにも出かけられないんだよ。パートナーのほうが9歳年上なんだよ?なんで僕がパートナーの金銭的な面倒も見なきゃいけないの?
正直、パートナーと別れたいと思ったこともあった。

 

でも別れなかった。
昨日も書いたけど、僕は完璧な人間じゃないし、完璧になりたいとも思わない。
こんなダメな僕も受け入れてくれるのはパートナーくらいしかいないだろうなとも実感していたから。

 

だから「遊びたい!」という気持ちを昇華できる趣味を見つけようと思った。
お金が無いから、もちろんお金を使わない趣味を。

おもちゃ屋や雑貨店に行っては、なにか家の中で遊べそうなものはないかなと、あれこれ探し回ってみた。
マスコットやぬいぐるみを作ってみようかなと裁縫道具を買ってみたり、
小物やミニチュアを作ってみようかなと粘土を買ってみたり。

もともと不器用で、図工や美術が大嫌いだった自分が、こんなことができるわけがない!!
ちょっと考えてみればわかりそうなものなのに、結局は裁縫も粘土も失敗続きで挫折してしまった。
お金をかけないはずが、逆に散財してしまった。

 

そんなときに、たまたま立ち入った雑貨屋で一風変わった画材を見つけた。

ぺんてるの「マルチ8」という商品だ。
一本のペンで、8色の色鉛筆が使える。
多色のボールペンとかならしょっちゅう見かけるが、色鉛筆は珍しい。
「絵を描きたい」という気持ちよりは「この画材を使ってみたい」という軽い気持ちで、衝動買いをしてしまった。

 

この画材で絵を描いてみたら、楽しかった!!
あれほど絵を描くのが嫌いな自分が、絵を描くのが楽しいなんて思うなんて。
もともと絵を描くのが嫌いだから、上手に描こうなんて思わなかったからかもしれない。
(絵を描く楽しさを知ったときに、デジタルイラストにも挑戦しようと思ってペンタブを買ったけど、数回程度しか使わずにクローゼットにしまいっぱなしになってしまったのである。)

 

小説家になりたかった自分。そして絵を描く楽しさを知った自分。
25歳の頃に「漫画を描きたい!」と思った。でも、漫画ってどうやって描けばいいの?と
書店で漫画の技法書を探してみたり、通信講座で勉強もしてみた。
そうして、ついに28歳の時にpixivデビューした。

 

もっと漫画を描きたいから時間を作りたいと、会社勤めを辞めて新聞配達員に転向した。1日4~5時間の実働で、残りの時間はたっぷり漫画に使える。
会社員時代に比べて収入が下がったけど、23歳の頃の貧乏時代を思えば苦にならない。

 

思えば、たった一本の画材で、自分の人生をここまで変えてしまうなんて、
人との出会いも運命的だけど、物との出会いも運命的としか思えない。

 

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